松葉ヶ谷雁信

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涅槃図

今日は お釈迦様の涅槃会と日蓮聖人の御降誕会を併せて行いました
今日はハワイ日蓮宗別院所蔵の釈尊涅槃図についてお話をしたいと思います

まず涅槃図とは お釈迦様がお亡くなりの様子を表した図のことで 私たちにとっていろいろなことを教えています 涅槃図が日本で描かれ始めたのは 平安時代からといわれており 現存する最古のものは約1000年前のものです ここに掲げてある涅槃図は いつ書かれたのかはわかりませんが 1970年の飯島先生の時代に寄付されたものです ですから 少なくとも44年は経っているといえます 書いたのは 中島清堂という有名な日本画家のようです

安国論寺所蔵 釈尊涅槃図

絵の上の方からお話をします 上を飛んでいるのは天女で 何か手を出しているように見えます これはその下に書かれている薬袋をお釈迦様を助けようと天から持ってきて投げ落としたところなのです ところが その薬は 木に引っかかりお釈迦様を救うことはできませんでした このことから 死は避けられないものであることを示しています

お釈迦様の周りに木が生えています 幹が色を失っています これは元々常緑の木なのですが 人間や動物などだけではなく 植物も悲しんだことを表しているのです 葉はきれいな常緑の色のままですが これはお釈迦様の教えが亡くなられた後も色褪せたり枯れたりすることなく受け継がれていくことを示しているのです

お釈迦様は他の人物より大きく金色で描かれています 金色は お釈迦様のお体の特徴である32相の1つであり お釈迦様は必ず金色で描かれています 他の人物より大きく描かれているのは その存在の大きさを意味しています お釈迦様は 北に頭を向けて亡くなられたといわれていますので この図も本当は左側を北に向けて掛けなければならないのですが この本堂の都合でこのように掛けています

お釈迦様の周りには その死を悲しむ多くの人や守護人 動物などが描かれています 先ほどの天女もそうです ざっと見回すと 面白いこと気がつきます それは 人の中で 右肩を出している人とそうでない人がいることです 実は 右肩を出しているのはお釈迦様の直接の弟子達なのです 右肩を出すというのは 尊敬を表すことなのです ですから 私を見て頂くとわかるのですが 袈裟は必ず左肩にかけ 右肩は何もかけないようにします 皆さんがお使いの肩章も同じで 必ず左肩にかけてお釈迦様とその教えに対する尊敬と信仰を表します これは日本だけではなく 韓国も中国もベトナムもチベットも仏教徒は必ず右肩を出しています

お釈迦様の側に集まる人などについて特徴的なものだけについてお話をします 悲しみのあまり倒れているのが 十大弟子の1人阿難尊者です 阿難尊者は 長くお釈迦様のお側で世話をして最も多く教えを聞かれた人です 全てのお経は 「我かくのごとく聞けり」という言葉で始まるのですが この教えを聞き暗誦していたのが 阿難尊者なのです ですから 今日私たちがお釈迦様の教えをお経として読み 唱え 理解することができるのは この人のおかげなのです お釈迦様の死を眼前にして倒れてしまうのも当然のことといえるかもしれません

集まっている人の中で 唯一供養を持っているのが純陀です お釈迦様はこの純陀から受けられた最後の供養を食べたことが原因で亡くなったといわれています 自分が供養したもので体調を崩されたことを後悔して 別のものを供養している様子が描かれています 亡くなる前にお釈迦様は 後に純陀が大変な立場に追い込まれることを心配され 純陀の供養は最高のものであったといわれたそうです また その言葉の中には 死は厭うべきものではないという教えも込められています

お釈迦様の足元にいるのは 年老いた女性です 足を拝むのは貴人に対する最高の礼を示しています 45年の間布教の旅を続けられたお釈迦様の御足をさすり 感謝と労わりと悲しみの涙を流しているのです お釈迦様が亡くなられて最初に礼拝が許されたのが女性であったのは象徴的なことといえるかもしれません

動物もたくさん描かれています 現実の動物だけではなく 空想上のものもいます 例えば 獅子が書かれています これは ライオンを基にした想像上の動物で 獅子がなにも畏れることのないさまがお釈迦様の徳にたとえられます また 獅子の吼え声は地を震わして遠くまで響き渡り これを聞いた百獣はことごとくひれ伏すことから 外道の邪見を破摧するお釈迦様の説法をこれに喩えて「獅子吼」(ししく)といいます 普段は食うか食われるかの関係で 一緒にいることはないのですが お釈迦様が亡くなられたことを多くの動物が共に悲しんでいるのです

お話したいことは沢山あるのですが 時間がありませんので またの機会にしたいと思います 書かれたものひとつひとつにいろいろなエピソードがあり ただ単にお釈迦様の死を描いただけでなく 深い意味を持った絵であることをご理解頂きたいと思います

2014年2月16日