松葉ヶ谷雁信

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お盆

お盆とは 仏教において亡くなった人たちがあの世からこの世へと帰ってくる期間と言われています 伝統的に亡くなった家族だけではなく 普段遠くに住んでいる家族も集まります つまり 亡くなった家族と生きている家族が集り共に過ごす大切な時間なのです その期間は 仏壇の扉を大きく開け その前に別のテーブルを置いて食べ物や飲み物などいろいろなお供え物を並べます お供えした後には 下げて 家族が共に同じものを食べ 思い出を語ったりして楽しい時間を過ごします あの世から帰ってきた家族にお供えするのは 飲み物や食べ物だけではありません 最も大切なものは 法味 つまりお経を上げることです お経を上げることにより その功徳を回向することが最も重要なお供えとなります

お経と共にお盆には塔婆供養をします 塔婆とは 元々はお釈迦様のお墓のことで それが変化して塔を建ててお釈迦様を供養するようになりました ただ実際の塔を建てることはとても大変なので その代わりに木や紙で塔の形を作りお釈迦様を供養するようになりました ですから 現在お盆法要に使われている塔婆の上の方のギザギザの部分は 昔建てていた塔を意味しています 下の部分に家族や人の名前を書いてお経を上げて供養しています 塔婆1本に一家族か一人の名前を書きます 1人が2本の塔婆が一般的で 父方母方両方の家族の名前でそれぞれ供養するのです 例えば ジョン・スミスさんとジェーン・ドーさんが結婚した場合 夫婦でスミス家とドー家の亡くなった家族のために塔婆を2本供養するということです また 1人のために塔婆供養することも一般的で 亡くなった配偶者のためになどよく行います この供養をお盆法要の時に執り行います

さて お盆にはそのような形で亡くなった家族の為に供養をしますが 初めてお盆を迎える霊にとっては 戸惑うことが多いと思います 遺族も同じで 特に最近亡くなった方の思い出や安否を気遣うことは当然のことです 何をどうしていいのかわかりません 初めてお盆を迎える霊のために 供養の方法として私達はキャンドルライト法要と灯籠流しを行っています

キャンドルライト法要は 本堂のほとんどの電気を消し 御宝前と灯籠のローソクの灯りのみで法要を行います 暗い本堂の中で揺れながら光る灯籠の火は まるで亡くなった家族の魂のように見えると思います 亡くなった方の霊を直接見ることはできません 灯籠の中を直接覗き込んでも見えるのはローソクだけです そうではなくて 間接的に見える灯籠の中の灯りが 直接会うことのできない亡くなった家族の魂を象徴しています 御宝前に置かれていると 余計にそのように見えると思います この世を離れて仏様の下で次の人生を歩み始めた私達の家族は 仄かな光に形を変えたのです 皆さんが覚えている顔や体つきではありません しかし 外見が変わっても皆さんの家族であることには変わりありません あの灯りを見ると 皆さんの心に中にいろいろな思いが浮かんでくることでしょう あの光の形となった家族も同じようにいろいろ思いを抱きながら皆さんのことを見ています そして 皆さんの心の中に何か語り掛けてきていると思います みんなでお唱えした法華経やお題目 あるいは焼香の香りは 亡くなった家族に対する挨拶であり 感謝であり いたわりでした 皆さんの気持ちは十分家族に伝わったことと思います

これから 灯籠流しを行います これは 最近亡くなった霊が お盆の終わりにあの世へと帰っていく様を表したものです あの世とこの世の間には三途の川と言う川が流れていると言われています その川を渡ってあの世へと霊が戻るので 灯籠を川や池や海に流すのです 特に新盆の人には 初めてのことなので迷うことのないようにと光と共に帰ってもらうようにするものです 水に浮かび流れていく灯籠に私達は亡くなった人の面影を探します そして あの世で幸せな暮らしをするように また来年もこの世に戻って来てくれるようにと祈ります ですから 新盆とは前の年のお盆が終わってから亡くなった人 初めてお盆を迎える人の為のものなのです このような理由で私達は毎年灯籠を流し 塔婆供養をして家族のためにお盆の法要を行っています

それは 亡くなっても家族だからです 生きていても亡くなっても家族に変わりはありません 亡くなってしまったけれど いつまでも大切な家族のために 生きている家族が感謝を表すための法要であり儀式がお盆です 生きている家族だけでなく 亡くなった家族も大切にするのが仏教の教えです 会うことはできなくなったかもしれませんが いつまでも家族であることを忘れないでいてあげて下さい

2016年7月9日