松葉ヶ谷雁信

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法水

今日は あるメンバーからのご依頼に応えて 法水についてまずお話ししたいと思います

鬼子母神様の右側に瓶が置かれていることをご存じでしょうか この瓶には水が入れてられていて 法水と呼びます 法とは仏様の教えのことであり 法水とは教えの水という意味です 何のためにこのようなものを置いているのかといえば お参りに来た方が 自らを浄め 鬼子母神様のお力を借りるために飲むのです これは 元々特別なものではなく普通の水です 毎週交換しており お腹を壊すことはありません 普通の水ですが ご存じの通り 毎朝毎夕お経の上がったお水でもあります お経を毎日上げることにより 鬼子母神様の力とお経の力が水に加わり 法水となり 魔を払い身を浄めることができるようになるといわれています いろいろ困ったことがある時など 法水を頂くとよいと思います

飲み方は まず鬼子母神様にお参りして それから横に置いてあるカップに少し法水を入れます 法水はほんの一口分頂くもので 沢山頂くもの お替りして頂くものではありません 両手で持って 鬼子母神様に向かい礼拝してから頂きます 飲み終わったらもう一度礼拝します カップは近くにゴミ箱がありますから そこに捨てて下さい もし 経験がないのであれば 一度頂いてみて下さい よし頑張ろうという気持ちになります

さて 日蓮宗新聞に興味深い話が載っていましたので 皆さんにご紹介したいと思います 8月にブラジルのリオデジャネイロでオリンピックが開催されました そして9月7日から同じ場所でパラリンピックが開かれました ご存じの通りパラリンピックとは 障害を持った方のためのオリンピックです 1992年より オリンピックの後に同じ場所でパラリンピックが開催されるようになりました 世界の最高峰の選手が競うオリンピックも素晴らしいものですが 障害を持った方が全力を尽くすパラリンピックもまた同じように素晴らしいものです なぜなら その気になれば何でもできるという感動を与えられるからです

さて オリンピックのアイスホッケーに似たものとして パラリンピックにはアイススレッジホッケーという競技があります スケート靴の代わりに 身障者のための特別のそりに乗ってアイスホッケーをするのです 元々アイスホッケーは氷上の格闘技と言われていますが アイススレッジホッケーも同じで かなり激しいスポーツだそうです バンクーバー冬季パラリンピックの日本代表として中村稔幸さんという方が参加されました 中村さんは8年前に交通事故に遭い 両足の膝から下を失くしました それ以降車椅子生活となりましたが なかなか現実を受け入れられず リハビリにも前向きに取り組むことができませんでした

ある時 リハビリの先生が一人の少年を連れてきました 当時15歳だった三澤拓君でした 三澤君は 6歳の時に交通事故に遭い 左足を失い それから義足をつけていました 中村さんの前で軽々と走って見せて 「大丈夫 大丈夫 その気になれば何でもできますよ」と明るく話してくれました 中村さんの心の中で何かが変わりました その後しばらしくして ロシアのソチで開催された冬季パラリンピックで 三澤君がスキー回転で5位に入賞したという新聞記事を見つけました ものすごく刺激を受けた中村さんは 自分もと一念発起し リハビリにも積極的に取り組むようになり バンクーバー冬季パラリンピックのアイススレッジホッケーの日本代表選手に選ばれました

私達は何か辛いことがあると 自分の現実を認められず そこから逃げ 目をそらし 誰かのせいにしようとします しかし 本当はそうではなくて 自分自身の気持ちが大事なのです 人の親切に頼ることもあるかもしれませんが どんなことでもまず自分ですることが基本です 自分にやる気がなければ 誰も協力してはくれません 私達は何か困難があると 仏様に祈ります 鬼子母神様に祈ります ご祈祷を受けます 先ほどの法水を頂くこともそうでしょう しかし 単に祈るだけではなく 自分の心にきちんとした信仰がなければ 仏様の存在がなければ どのような願いも叶いません 中村さんも ふさぎ込んでいただけでは何も始まりませんでした 足がないという現実をしっかりと見据え その苦しみを受け入れました 苦しみを受け入れたから 苦しみから自由になり 次へと進むことができました

法華経の第3章譬喩品に次のような言葉があります 「諸々の苦縛を離るるを解脱と得ると名づくる」苦しみに縛られていることから離れることが悟りであるといわれています 中村さんも 足がないという苦しみに縛られている時は何もできませんでした 足がないという現実を受け入れたことにより そこから何ができるのかということが考えられるようになりました これは一つの解脱であったと思います 心の中で起きた小さな解脱であったと思います そしてスポーツを始め 厳しい練習を重ね 日本代表選手にまでなりました

私達は 厳しい練習をしなくても 大きな解脱を得ることができます それは 信仰をすることであり お題目の修行を重ねることです そのことによって 自分を苦しめている困難を理解し 受け入れ もっと大きなものへと進むことができます より一層のお題目修行をお勧めします

2016年10月2日